読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

歌舞伎や文楽に取り入れられた謡曲

 私が趣味として習っている謡曲(能)と近世の演劇である歌舞伎や文楽との関係に興味があり、以下にまとめてみました。それほど多くの舞台を見たわけではないから、まだまだ不十分な点はご指摘をいただきたいと思います。

 

 大きく3つのパターンに分類できると思う。

 

1.能をそのまま歌舞伎に取り入れたもの

(1)「船弁慶」「土蜘蛛」「紅葉狩」「酒呑童子」などほとんど明治以後の 作品である。謡曲の詞章は長唄等にとりいれられて演奏されるが、謡曲そのものが謡われることはない。

(2)「寿式三番叟」と「勧進帳」は幕末の作か。「寿式三番叟」は能の「翁」を義太夫節および長唄へ移しているが、一部謡曲のまま謡われるし、「勧進帳」でも義経一行の登場の場面での長唄が「安宅」の詞章に謡曲風の節付けで始まる。後半に弁慶が延年の舞の出だしで「翁」の一部を謡う。

 

2.能のパロディーとして作られた作品。

(1)「義経千本桜」 二段目(渡海屋・大物浦)、「源平布引滝」三段目(実盛物語)はそれぞれ能「船弁慶」「実盛」の大胆な翻案であり、浄瑠璃の間に巧みに謡曲がとりいれられている。
 (2)「平家女護島」「娘景清八島日記」「京鹿子娘道成寺」はそれぞれ能「俊寛」「景清」「道成寺」のストーリーをおおむね骨組みとしているが、浄瑠璃の語り出しを謡曲にしたり、長唄謡曲風の節付けで始まる。「京鹿子娘道成寺」では、途中で「鐘尽し」が踊られるが、これは能「三井寺」の「鐘の段」が長唄に取り入れられており、節付けはかなり謡曲に忠実である。

(3)能「石橋」をもとにした演目としては、明治時代に作られた「春興鏡獅子」や「連獅子」が能に近い形式であるのに対して、江戸時代の「枕獅子」や「英執着獅子」の場合、後半には能の詞章が取り入れられているものの、全体としてはほとんど能の雰囲気は感じられない。頭に載せた二枚重ねの扇などは民間の獅子舞の扮装に近いのではないか。

(4)「摂州合邦辻」は一部の登場人物名が能「弱法師」と共通しているが、ストーリーはほとんど無関係で、共通の伝説をもとに別個に作られたと言うべきだろう。

 

3.作品としては能を下地にしていないが、舞台で謡曲が使われるもの。3つのケースに分けられると思う。
(1)武家の式楽として能が演じられる場面があるもの。 

 「仮名手本忠臣蔵」三段目では、たまたま館で演じられている「高砂」が聞こえてきて、その詞章がお軽と勘平の色っぽい逢引きを暗示するのだから笑ってしまう。

 新歌舞伎「元禄忠臣蔵」御浜御殿の終幕も演能が行われている設定で、謡曲が聞こえてくる。やがて徳川綱豊が「望月」の後シテの扮装で現れる。立ち回りでは能の囃子が流れる。(オリジナルの脚本では「船弁慶」の後シテとなっているが、面をつけていては冨森助右衛門が必死で突き出す槍をあざやかにかわすのはいくらなんでも無理がある。それに「望月」のほうが仇討に似つかわしい。)

(2)BGMとして使われるケース

 「極付幡隨長兵衛」の幕切れで「夜討曽我」が謡われ、「伽羅先代萩」の細川勝元の登場場面で謡曲(曲名不明、歌舞伎座イヤホンガイド担当の土屋歩氏によると歌舞伎オリジナルらしい)がいかにもそれらしい雰囲気を作り出している。その後の刃傷の場面では能の囃子がBGMとして使われているし、その他の演目でも武士の登場場面ではよく能の囃子が使われる。(これが寄席の出囃子「中の舞」として取り入れられている。)

(3)登場人物が謡う例

 「仮名手本忠臣蔵」七段目で力弥が口走った言葉をごまかすために由良之助が「八島」を謡う。九段目でお石が「高砂」を謡うが、これは祝言の場面だから当然か。
 「義経千本桜」渡海屋では、知盛が出陣を祝って「田村」を舞う。(原作の浄瑠璃には舞はないが、幕切れは謡曲風の詞章と節付けになっている。)
 「伽羅先代萩花水橋の場で廓帰りの足利頼兼が謡曲鞍馬天狗」を口ずさむ。刃傷の場の幕切れに渡辺外記左衛門が勝利を祝して謡うのは(村上湛氏のブログによると)番外曲「八幡弓」。
 「水天宮利生深川」では発狂した筆屋幸兵衛が箒をひっさげて「船弁慶」の知盛の名乗りを謡う。いかにも士族の末路にふさわしい。(ちなみに筆者も仕舞「船弁慶」の練習の初めの段階では箒を使った。薙刀では部屋のふすまや障子にどのくらい傷をつけるか予想できなかったから。)

 

参考にしたWebサイト

歌舞伎見物のお供http://blog.goo.ne.jp/yokikotokiku
中村扇雀公式ブログhttp://www.senjaku.com/blog/
日本舞踊宗家立花流邦楽歌詞集http://www.souke-tachibanaryu.jp/lyric/index.html
国立国会図書館デシタルコレクション『宴曲十七帖・謠曲末百番』http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/949614(コマ番号164)

 

ymasashiのブログへ